就活日記 > [特別企画]介護のしごと体験記|04

Interview

04

河野 瑞希さん

Mizuki Kawano

純真学園大学
保険医療学部
検査科学科

利用者との信頼関係を
積み重ねることが、
“ありのまま”過ごせる
介護を可能に。

認知症を患い、社会から孤立した一人の女性のために「居場所」をつくる——。そんな思いから1991年に介護事業をスタートした「宅老所よりあい」は、以来30年以上にわたり多くの利用者を支えてきました。 以前、母が働いていた介護施設を見ていたという河野さんが、今回こちらの施設で2日間就業体験してくれました。介護の仕事に対するイメージはどう変わったのでしょうか。

母の働く介護の現場を見てきた経験から、介護職に興味

介護に興味を持ったきっかけを教えてください。

河野さん(以下、敬称略):小学校低学年の頃、介護職として働く母が夜勤の時に、職場の老人ホームへ一緒に行って泊まったりしていました。中学生になってもたまに遊びに行っていて、自然とお年寄りと接することが好きになり、母の仕事である介護にも興味を持つようになったんです。

今回、宅老所よりあいの就業体験に応募されたのはなぜですか?

河野:「人の役に立ちたい」という思いがあり、現在は大学で臨床検査技師になるための勉強をしています。医療に携わる上で、母の職場以外にも介護の現場を見ておいた方が良いと思い情報を集めていました。たまたま就業体験募集のページを見つけて、そこから「宅老所よりあい」のウェブサイトにたどり着き、楽しそうな雰囲気の写真を見て、体験してみたくなりました。

「話す」ことから、少しずつ築き上げていく信頼関係

今回の体験内容について教えてください。

河野:朝、現地に集合し介護職員さんに挨拶をしてから、この場所で大切にされていることや、今日やることなどについて説明などオリエンテーションを受けました。その際、職員さんから「この2日間の就業体験では、利用者さんと話をして関係性を構築してください」と言われました。

「話すだけなら楽かも」とは思いませんでしたか?

河野:かえって戸惑いました(笑)。利用者さんに対して自分から積極的に話しかけた方がいいのか、それとも職員さんが最初に話題を振ってくださるのかがわからず、オリエンの時は緊張していて聞きそびれてしまって……。少し不安な気持ちのまま利用者さんの隣に座ったんですが、職員さんが横について皆さんに私を紹介してくださったので、自然な形で会話に入ることができ、すごくありがたかったです。おばあちゃんの身の上話を聞いたり、「大学では何を勉強しているの?」と質問されたり、本当の孫のように接していただきました。
実際、入ったばかりの職員さんには最初の1カ月間は補助業務をさせず、まずは利用者さんとの対話を通して関係づくりに徹すると聞いて驚きました。でも確かに、信頼関係が築けていない人に介護されるのは利用者さんも不安なはず。そこから始めるのは当然のことだと納得しました。

お母様の職場と比べて、何か気付いた点はありますか?

河野:デイサービスに来られる利用者さんは、自分でできることが多いということを知りました。利用者さんが自分の家の中にいるように一人で立ち上がってトイレに行くのを見た時はびっくりしました。要介護のレベルによって介護する人の身体的な負担も異なるようです。母の職場はグループホームなのですが、自力で起き上がれない方もたくさんいて、体力を使うお風呂の介助なども見てきました。この施設では私が想像していたほどは体を使うお仕事はなかったように感じました。

糸島の海を眺めながら、利用者と気持ちが通い合った瞬間

皆さんと一緒にドライブにも行かれたようですね。

河野:ランチタイムに近所のボランティアさんの手作りごはんを利用者さんと一緒にいただいた後、数名のおばあちゃんたちと一緒に、糸島へドライブに出かけました。こういった施設でドライブに行くなんて思ってもみなかったので驚きました。

おばあちゃんたちの様子はいかがでしたか?

河野:車を停めて、外へ出て利用者さんたちと散歩をしながら海を眺めていたんですけど、私が「暑いですねー」と声を掛けると、おばあちゃんが笑顔で「そうね」「海がきれいだね」などと答えてくださったのがうれしかったです。海を見ているおばあちゃんたちの表情がどんどん明るくなっていくのがわかり、私自身も「来て良かった」と充実感を味わえました。

無理強いはせず、家族のようなさりげなさで居場所をつくる

就業体験をしてみて、これまで抱いていた介護のイメージと違ったところはありますか?

河野:一般的に介護施設といえば、食事やおやつ、軽い運動やお遊戯など、利用者がスケジュール通りにみんなそろって何かをするイメージがありました。でもこちらの施設では決められたことを決められた時間にするのではなく、当日来た利用者さんの様子を見ながら、一人ひとりのやりたいことに合わせて内容や時間、対応などを変えています。利用者さん個人の意見や意思が尊重されていて、やりたくないことは決して無理強いしないところが良いと思いました。

丁寧な分、職員さんの仕事も増えそうですね。

河野:宅老所よりあいは一般的な介護施設と比べて職員の数が多いので、こうした手厚い対応も可能なのかもしれません。働く人にとっても肉体的な負担が少ないのも良いと思います。

職員さんたちの働く姿を間近で見てどう思いましたか?

河野:すごいと思ったのは、職員さん同士はほとんど話さないのに、利用者さんに次は何をしてもらうか、アイコンタクトで合図しながら動いていたこと。その動きがとても自然でさりげなく、あまり仕事然としていないんです。「おうちにいるような」緩やかな空気感は、こういうところから生まれているのかな、と思いました。職員さんが利用者さん一人ひとりにきちんと向き合い、強制をしたり口うるさく言ったりせず相手の話に耳を傾けるところも素敵でした。時々、隣にいるおばあちゃんに話を振って、輪の中に入れてあげようとしている場面も印象に残っています。

今回の就業体験を、将来にどうつなげていきたいですか?

河野:無理強いせずに利用者さんの話を聞いて、そこからどうしたら心地よく過ごせるかを考え歩み寄る職員さんの姿勢は、私が目指す医療の世界でも模範にしたいと思います。ここで得たことを忘れずに、たくさんの人と向き合って仕事をしていきたいです。

これから介護の世界に進みたいと思っている人にメッセージをお願いします。

河野:いろいろな施設を回って見学することをお勧めします。老人ホームやデイサービスといった施設の種類や場所によって、規模や取り組み、大切にされていること、雰囲気なども全く異なります。気になるところはまず見に行って、自分に合うところを見極めるようにしてください。

Facility

担当者様

宅老所
よりあい

管理者

末吉 倫子さん

Michiko Sueyoshi

うまくいかなかった経験も、きっと成長の糧となるはず

私が福祉の大学を出て当施設で働き始めた当初は、実際の現場が大学で学んだイメージと違い、思い通りにいかずいらだちを募らせていました。夜中に何度もトイレに行く利用者さんに思わず怒ってしまったことも。本人に謝った後も自己嫌悪に陥っていた私を、当時管理者だった当施設の代表は「真剣に向き合っているからこそイライラもする。ここにいる誰もが似たような経験をしたことがある」と笑顔で受け止めてくれました。この出来事があったから今日まで仕事を続けてこられたし、今では介護をするご家族の気持ちにも共感できるようになりました。

介護は人相手の仕事。現場は毎日状況が変わり、いつも同じやり方でうまくいくとは限りません。ここでは特に役割分担を決めなくても、職員一人ひとりが常にお互いの動きをよく見ながら、自分がすべきことを考え、自然に行動に移しています。言われたことをこなすだけの“効率に追われる”現場は、働く人にとっても魅力はありません。「何が起きるかわからない」というのは難しさでもありおもしろさでもあります。そこに働く価値を見出し、日々の出来事を楽しめるようになれば、この仕事を長く続けていけると思います。

2日間にわたって就業体験をしてくれた河野さんは、利用者さんの隣で自然に会話する姿が印象的でした。若い世代の方と交流して、利用者さんも良い刺激を受けたようですし、こうしたきっかけづくりには今後も取り組んでいきたいです。

本プロジェクトは厚生労働省補助事業介護のしごと魅力発信等事業 情報発信事業(WEBを活用した広報事業)として実施しています。(実施主体:楽天グループ株式会社)