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チーム力×個人力を磨く! ヤッホーブルーイングが取り組むコミュニケーション施策【注目の地方企業#2後編】

「よなよなエール」をはじめとするクラフトビールで、長野県より全国へ新しいビール文化を発信する株式会社ヤッホーブルーイング。 前編では、廃業の危機を乗り越え、今に至るまでのあゆみを伺いました。そんな同社は、2017年・2018年版「働きがいのある会社」ランキング(Great Place to Work® Institute Japan実施)では、ベストカンパニーに2年連続で選出されています。 後編は、採用や教育、メンバーの結束を深める独自のコミュニケーション方法について、代表取締役社長なのに社員やお客さんから「てんちょ」の愛称で親しまれる井手直行さんに引き続き伺いました。

株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長・井手直行さん

ヤッホーブルーイング独自の「採用の2軸」

思わず手に取りたくなるヤッホーブルーイングの製品デザイン

かつて、企業の売上が低迷していた2000年代には、採用広告を出しても1人も応募がなかったと振り返る井手さん。しかし、今では入社倍率は50~100倍に跳ね上がり、2017年度には12人を新卒採用しています。

同社の募集サイトを見ていて気になったのは、人材募集コピーの一つ「知的な変わり者」。これは一体、どのような人材を指しているのでしょうか?

「私達の2つの評価基準で採用しています。一つは『私たちの尺度で優秀な人』、もう一つは『ヤッホーブルーイングの理念に共感してくれる人』です。優秀の基準は企業によってさまざまだと思いますが、私たちは、『優秀=自ら考えて行動する』と捉えています」(井手さん/以下同)

醸造所の入り口に貼られたミッション

「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げ、クラフトビール文化を発信するリーディングカンパニーのヤッホーブルーイング。ビール好きかどうかは採用の条件には入らないのでしょうか?

「かつては『ビールが好きなこと』も採用の基準に加えて、3つのうち2つが当てはまったら採用をしていたのですが、それだとミスマッチが起こることに気づきました。例えば、ビールが好きで優秀な人材だけど、僕らの理念に興味がなかったら、一緒にビール文化を広げていくのは難しい。だから、採用では理念を含めてこの会社が好きかどうか、自分の頭で考えて行動できる人かどうかを見ています。ただ、どうせここに人生をかけるなら、ビールが好きじゃないのはもったいないよ、とは伝えますね」

醸造所の設備を個人で使える

採用条件ではないとはいえ、ビールを愛する人はもちろん大歓迎。同社は酒税や原材料など必要な費用を負担すれば、社内の設備を使い、本格的なビール醸造に個人でチャレンジできる福利厚生を用意しています。休日を利用して、社員同士がつくったビールをテイスティングすることもよくあるのだとか。

採用活動を繰り返す中で企業側と就活生とのミスマッチはなくなり、現在では相思相愛で入社する社員がほとんど。求める人材の明文化は、採用する側と応募する側双方に大きなメリットをもたらしています。

新しいチャレンジをどんどん促す8カ月の研修

では、実際に入社してから、新卒社員にはどのような研修機会があるのでしょうか。

「入社後の1カ月は社内の全体像を把握してもらうために、座学の研修を行います。ビールづくりから出荷作業まで、幅広く学ぶ貴重な機会です。これに並行して、会社が用意したお題に対して企画を立てる『新人プロジェクト』研修を行っています。研修と呼びつつも、優れた企画はそのまま社内で進めることもあります。例えば、『ビアパブをつくる』というお題は出てきたプランがとても良かったので、プロジェクトに関わった新入社員を中心に2年かけて形にしてもらいました」

新人が企画を立てるプロジェクト研修の様子

入社2~8カ月は3つの部門で実地研修を行い、12月に正式な配属が決定。醸造や物流、営業、マーケティング、通販、広報など、幅広い業務に関わるチャンスがあります。

「正式配属後も2~3年ペースで部署異動があります。若いうちは得手不得手を決めつけず、自分が情熱を注ぎたい仕事を探すのが重要だと考えていますので」

自立を促し、自分で考える機会を与えるため、入社1年でみるみる能力が身につくそうです。失敗をとがめずチャレンジを後押しする先輩は、新入社員の自主性を伸ばす役割を担っています。

また、個人の強みを顕在化させるため、社員全員が「ストレングス・ファインダー(資質テスト)」を実施。その結果を社内で開示しています。

「出る杭は伸ばす。社員を画一的に横並びにするのはもったいないですよね。自分の得意なところを伸ばし、仕事に活かすのが大切です。得意な業務をやっていると、楽しい気持ちになるじゃないですか。ちなみに、私の資質の最上位は『戦略性』です。自社の戦略を練るのも好きですし、他の企業の戦略を読み解くのも大好きなんですよ。自分の資質を知ることで能力に自信を持つことができ、さらに成果に繋がっていくと信じています」

入社式では全社員が手形を押し、新たなチームでスタートを切る決意表明を行う

「フラットな社風」の要となるコミュニケーション施策

ヤッホーブルーイングの創業期は、地ビールブームの全盛期。どの観光地でも、土地の名がついた地ビールが人気でした。もちろんヤッホーブルーイングの製品も軽井沢で大好評。当時は、営業の必要が全くないほどの売れ行きだったとか。

しかし、地ビールは、一度飲むと満足してしまうお客さんも多く、リピーターの獲得が難航し、1999年に地ビールブームは終焉。ヤッホーブルーイングの売上も減少していきます。その時期に生まれた課題が社員のモチベーション低下でした。

しかし、井手さんが楽天で学んだチームビルディング研修を導入したことで、社内の雰囲気は徐々に明るくなっていきました。これは、「コミュニケーションがよいチーム作りに大切だ」と気づきます。そして、個人のコミュニケーション能力の大小に依存せず、やがて「会社の文化」として根付くように仕組み化を進めていきました。

その一つが、「ニックネーム制」の導入です。

ニックネームも部署名も個性が溢れる

「ニックネームで呼ぶと、必然的に年齢、キャリア関係なくフラットな対等な立場になりますよね。約140名のスタッフは全員ニックネームで呼び合うことが、ヤッホーの文化として根付いています。もちろん私も例外ではなく、社員やお客さんから『てんちょ』と呼ばれています」

さらに、現在約20ある部署名も「ヤッホー盛り上げ隊(人事・総務)」「おもいやり隊(受注・顧客対応)」など、ユニークなものばかり。ほかにも、社内でビールを飲む「社内BAR」やすべての拠点でテレビ電話をつなぎ他拠点が何をしているのかリアルタイムで見られる仕組み「やまびこ」など、同社のさまざまなコミュニケーション制度は、日々アップデートと導入が繰り返されています。

「新たな制度を生み出すだけでなく、続けてきた通例をアップデートしていくことも重要だと考えています。例えば、10年前まで、朝礼は私から業務連絡をするだけの時間でした。当然ながら朝礼中は場が静まり返り、コミュニケーションとはほど遠い雰囲気です。そこで、朝礼をスタッフそれぞれがプライベートなことを話す時間に変更しました。仕事の話は一切禁止で、話す内容は興味のある分野や趣味のこと。そうすると、社員間で共通項を見つけて、距離が近づくようになります。もちろんしゃべることが得意な人もいれば、苦手な人もいます。しかし毎朝30分必ず行う『仕組み』として続けることで、今まで上手に話せなかった社員も、自己開示に挑戦してみようという流れが生まれてきました」

さまざまな施策がまとめられたコミュニケーションマップ

さらに新しい制度の中には、社員から自発的に生み出されてきたものも。どんな小さな社内の課題も自分事として捉え、「まずやってみる」姿勢が社内文化として根付いているようです。

ビール文化の担い手は全国から集う

長野県からビール文化を発信するヤッホーブルーイング。その門戸を叩く入社志望者は、北海道から沖縄まで全国に渡ります。

新入社員は、まずは同期と共に寮で暮らし、夜な夜なご飯を食べながら親睦を深めるそう。「ビール好き」などの共通項があるため、社員同士は仲良くなりやすいそう。地方就職ならではの「知り合いがまったくいない、友達ができない」といった不安は少ないんだとか。

終始、フレンドリーな対応をしてくださった井手さん

最後に、井手さんから就活生に向けたメッセージをいただきました。

「もちろん給料や福利厚生を見比べてエントリーを決めることも一つの方法ですが、まずは自分が憧れ、情熱を注げる企業にアタックすることが一番ではないでしょうか。その時に、最も大切なのは、包み隠さず自分を出すこと。日本人は、自分を隠し、平均値に持っていってしまう傾向があるように思います。平均値を装わず、個性を発揮できる企業を探せば、きっと私たちの会社のように楽しく働けるはずです。ヤッホーブルーイングは万人受けする企業ではないかもしれませんが、『知的な変わり者』を待っています!」

醸造所の目印は代表製品「よなよなエール」のオブジェ

後編では、ヤッホーブルーイングの採用基準や教育制度について伺いました。今回の取材によって、コミュニケーションを重んじ、常に社員のチャレンジを後押しする同社のユニークな風土が見て取れたのではないでしょうか。

就職活動では情報収集が不可欠です。事業内容だけでなく理念やビジョンにも目を向け、自分に合った企業を探してみてください。

 

取材・執筆:ナカノヒトミ 編集:鬼頭佳代(ノオト) 撮影:小林直博

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ヤッホーブルーイングの掲示板・クチコミ - みん就(みんなの就職活動日記)

井手直行さん

お話を伺った方:井手直行さん

1967年生まれ、福岡県出身。大手電気機器メーカーや広告代理店を経て、ヤッホーブルーイング創業時の1997年に営業担当として入社。地ビールブームの衰退で赤字が続くなか、ネット通販業務を推進し、2004年に業績をV字回復させる。2008年に代表取締役社長就任。ニックネームは「てんちょ」で、よなよなエール愛の伝道師。