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おもてなしのプロを育てる!常磐興産・ハワイアンズ流の人財育成術【注目の地方企業#1後編】

福島県いわき市の大型レジャー施設「スパリゾートハワイアンズ」を経営する常磐興産株式会社。東京からの観光客を呼び込む優良企業の同社は、地域の学生から注目されている人気の就職先でもあります。 前編では常磐興産の会社の歴史や、お客様第一の経営体制を目指す施策などについて伺ってきましたが、後編では常磐興産の採用や人材育成にフォーカスしてお話を伺っていきます。 常磐興産ではいったいどのような方針で新卒採用を行い、おもてなしのプロを育てる社員教育をしているのでしょうか?同社の取締役執行役員でスパリゾートハワイアンズ総支配人の下山田敏博さんに伺いました。

スパリゾートハワイアンズ総支配人・下山田敏博さん

およそ40名の新卒社員を採用する理由

大勢の客で賑わうスパリゾートハワイアンズ

ハワイアンズの運営を行う観光事業部では、2018年度の定期採用で43名(大卒:7名、高校・専門・短大卒:26名、フラガール:10名)を新卒として採用しています。40名を超える採用は、2017年度から始まり、それ以前は例年30名前後でした。なぜここ2年間で採用人数を増やしたのでしょうか。

「数年前からアルバイトや派遣社員の採用を減らし、正社員を増やそうという社の動きがありました。ところが、いわき市全体で、若年層の中途採用が年々難しくなっています。一方で、地元の学生を中心に新卒採用の応募は多数あり、弊社に興味をもつ人が大勢いることがわかりました。このことから新卒社員の採用枠を増やし、人財を計画的に育成することにしました」(下山田さん)

3年後の離職率は全体で3%と低く、社員が定着しやすい職場といえます。将来に向けてさまざまな取り組みをしていく上で、これから数年は多くの新卒社員が必要になるといいます。さて、新卒社員には具体的にどのような新人教育をしているのでしょうか?

「入社1カ月目は、全新入社員合同で集合研修を実施し、ビジネスマナーや会社の歴史、業務の基礎知識などを学びます。大卒の社員は2〜5カ月目には、スパリゾートを運営する観光事業部のさまざまな部署での研修に参加。ホテルやスパ施設、売店、飲食店、総務、経理など、ハワイアンズを支える仕事を一通り経験しながら、業務の全体像をつかんでもらいます。全ての研修が終わったのち、一人ひとりの適性を見て部署に配属します」

さまざまな部署で研修をする狙いは、各現場の状況を身をもって知り、他部署と円滑にコミュニケーションをとれるようにすること。将来的には、管理職候補として活躍を期待しているため、この期間は非常に重要です。

研修では接客のノウハウも学べる

ハワイアンズ流おもてなし研修「ワクワクプロジェクト」

2011年、ハワイアンズは東日本大震災で被災し、約11カ月間の休業を余儀なくされました。2012年2月に再オープンをしたものの、震災の経験を来場者のために有効に発揮するにはどうするべきか、という課題が生まれました。その課題の解決策として生み出されたのが「ワクワクプロジェクト」でした。

「ハワイアンズを『世界一ワクワクする楽園』にするという目標を掲げ、お客様と従業員がワクワクできる場所を自分たちで作り上げる取り組みです。そのためにまずは、お客様をワクワクさせる接客トレーニングを始めました。従業員同士がお互いの接客態度をチェックして率直な意見を言い合うことで、これまで気がつかなかった細かな気配りができるようになりました。また従業員には、会社のビジョン、ミッション、行動指針が書かれた『クレドカード』を配り、お客様をワクワクさせるために何をしたらいいのか?など、迷った時にはカードを見るように伝えています」

全社員に配られるカードには、「お客様満足」「安全を第一に」「家族の“きづな”」という3つのクレド(約束)が書かれており、各項目に沿った行動指針が示されています。

行動指針が書かれた実際のクレドカード

「カードに記されている内容は、ごく当たり前のことです。ところが、当たり前のことを当たり前にやるのは、意外と難しい。お客様が100人いれば100通りの接し方があるので、3つのクレドを自分なりに解釈して、自分なりの答えを持って行動することが大切です」

一方、従業員自身がワクワクしながら働ける仕組みとして取り入れたのが「アロハカード」です。管理職は「アロハカード」を常に携帯していて、優れた接客をした従業員を見つけたら、その場で手書きのメッセージを添えて渡します。このカードをもらった従業員は、名札にハイビスカスのシールが貼られ、ほかの従業員からカードをもらった接客の見本となるスタッフであることがわかるようになっています。

アロハカードは名前を書いて渡すことができる

「アロハカードのおかげで、社内には“褒める文化”が広がりました。アロハカードの導入で、上司は部下の仕事ぶりにより目を向けるようになりましたし、上司が働く姿を見てくれていることが社員のやる気に繋がります。また、名札のシールの数を従業員同士で競い合うことで、向上心が高まる効果もあるようです」

女性管理職の誕生とOG再雇用で女性が働きやすい職場へ

もとは炭礦(たんこう)事業の会社だった常磐興産。その名残もあり、長らくマネジメント層のほとんどは男性でした。しかし、現社長・井上直美さんのある言葉で社内体制が一変したと、下山田さんは話します。

「震災後、会社は管理職の社員も含めて人手不足になりました。それを井上社長に『社内に人がいない』と相談すると、井上社長は『人はいる。目を向けてないだけだ』ときっぱり言い切りました。さらに続けて、『実(み)は熟してから収穫するのもいいが、熟す前に収穫する“早採り”もある』とも。つまり、若い社員に役割を与えて熟すまで育てる方法があると教えてくれたのです。そして、例え話として出たのが女性管理職の任命でした。当時、社員の約7割が女性だったのに対し、女性管理職はたった1名。井上社長の言葉で、古くからの慣習が成長の足かせになっていたことに気づかされました」

当時の様子を振り返る下山田さん

2014年4月、10名の女性管理職が誕生します。最初は男性ばかりの環境に戸惑っていた彼女たちも、今では力強く活躍できるようになったそうです。

「女性管理職のメンバーが参加したことで、まず会議の雰囲気がガラッと変わりました。男性は自分の立場が危うくなるかもしれないと発言を控えることがありますが、女性管理職のメンバーは素直に業務の中で感じた疑問や意見を言ってくれたんです。彼女たちの切り込んだ質問が会議の流れを好転させたこともありました。女性管理職を誕生させるという戦略は不安な面もありましたが、総じて今はうまくいっています。現在では30名が女性管理職として働いています」

さらに井上社長は、ハワイアンズ内で踊るフラガールの引退後の再雇用にも着手しました。現在、11名の元フラガールがハワイアンズで働いています。

館内でダンスを披露する現役のフラガール

「フラガールは全身を使うハードな仕事なので、18歳〜28歳までの10年ほど活躍して現役を引退するケースが多いです。そんな彼女たちを、フラガールとは別の職種として再雇用する『OHANA制度』をスタートしました。すでにハワイアンズの企業理念を深く理解していますし、フラガール時代に身につけてきた素敵な笑顔があります。それは、入り口でのウェルカム対応やハワイの伝統工芸品リボンレイを作るワークショップなど、お客様と接する仕事には非常に向いています。スキルを活かして再びハワイアンズを盛り上げてほしいという気持ちから始めた制度です」

また最近では、フラガールに限らずさまざまな職種のジョブリターン制度もスタートしています。

「結婚や出産、育児などを理由に退職した女性スタッフが戻ってこられるように、短時間でも働ける環境を整えました。また、スタッフが転職する時に必ず『次の職場が嫌になったら、遠慮なく戻って来ていいよ』と伝えています。たとえ一度離れてしまっても、また働きたいと思ってくれる人がいるなら再雇用します。だってハワイアンズで働きたいと思っている人と働けるなんて、素敵じゃないですか」

社員の平均勤続年数は、全体で11.9年。そのうち男性は15.2年、女性は7.6年(2018年3月末時点)と男女差はあるものの比較的長く働く方が多いようです。万が一、ライフスタイルの変化で離職することになっても、これまでのスキルを生かして同じ職場に再就職できる可能性があれば、今後のキャリアプランを考えやすくなりますね。

地方の企業で働くために必要なこと

スパリゾートハワイアンズの社員の80%が、地元・福島県民だというのも大きな特徴です。地元密着型の企業ですが、他県民の採用に後ろ向きというわけではありません。残り20%にあたる他県からの就職者のなかには、鹿児島県からフラガールになることを夢みて入社した女性もいます。地元を出て、異なる地域の企業へ就職する上で新卒社員が覚悟するべきことはなんでしょうか。

「やはり親元を離れ1人で生活することは大変だと思います。でもそれを乗り越えることで独立心が培われるはずです。自分の成長に向かって突き進む強い覚悟が必要かもしれません」

最後に、就活生に向けてメッセージをいただきました。

「常磐興産の主要施設であるスパリゾートハワイアンズは、創設から53年目を迎えました。その間、東日本大震災をはじめとする幾多の苦悩を乗り越え、世界一ワクワクする楽園の実現に邁進しています。次の半世紀に向けて『ハワイアンズ未来化構想 ALOHAプロジェクト』をスタートさせ、今後ハワイアンズと周辺エリア全体を対象とした将来計画を進めていきます。当社に興味があれば、ぜひ門を叩いていただければと思います。一緒に頑張りましょう」

大規模な施設であることがうかがえるスパリゾートハワイアンズの入り口

後編では、スパリゾートハワイアンズの新卒採用や人財育成について伺いました。長い歴史の中で、来場者も従業員もワクワクできる環境をつくるためのさまざまな企業努力が垣間見られました。

このように輝く優良企業は、日本全国にたくさんあります。就職活動では、視野を広げて自分にあう会社をぜひ見つけてください。

取材・執筆:水上歩美(ノオト) 編集:鬼頭佳代(ノオト) 撮影:森カズシゲ

関連リンク

常磐興産の新卒採用・就活情報 - みん就(みんなの就職活動日記)

下山田敏博さん

お話を伺った方:下山田敏博さん

1960年福島県いわき市生まれ。大学卒業後、常磐興産株式会社に入社し、総務・人事部門の業務に従事。2010年12月にホテルハワイアンズの支配人に就任し、約3カ月後に東日本大震災に遭遇。現在は、同社の取締役執行役員スパリゾートハワイアンズ総支配人。