【就活時事#4】IR整備法が可決!カジノが日本経済に及ぼす影響とは

就職活動の面接対策に役立つ「就活時事」シリーズ第4弾は、先日可決された「特定複合観光施設区域整備法(以下、IR整備法)」についてです。

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カジノ誘致の法律が可決・成立

7月20日にカジノ誘致に向けた「IR整備法」が参議院本会議で可決・成立しました。これはアベノミクスが掲げる成長戦略の一つで、カジノを含む「統合型リゾート施設(=Integrated Resort、略称IR)」を立ち上げ、その集客と雇用創出によって地域経済の活性化を目指すための法律です

この土台ができたことによって、カジノ誘致を仕掛ける自治体の動きがさらに活発になってきました。今回のIR整備法は、日本経済にはどのような影響を与えるのでしょうか。カジノやIRに関する書籍を多数執筆している、東洋大学国際観光学部准教授の佐々木一彰さんに伺いました。

f:id:hito-contents:20180817101633j:plain出典:fotolia

日本がカジノを誘致する理由

そもそもなぜ今、日本にカジノをつくろうとしているのか。佐々木准教授は、その背景に「人口減少」があると説明します。

「日本の人口が減少期に入ったことで、すでに国民の消費額が落ち込み始めています。しかし、人口が1人減った場合でも、8人の外国人観光客の消費額がその下落を補います。そのため政府は、2006年に『観光立国推進基本法』を成立させ、観光を基幹産業として育てる方向に舵を切りました。そこで浮かび上がったのが、カジノを収益核とした統合型リゾート施設の建設です」

外国人観光客数は2017年に年間2800万人を超え、過去最高を記録。観光庁によると2017年の外国人観光客1人あたりの消費額は前年比1.3%減。佐々木准教授はこの理由の一つに、国別消費額1位の中国人観光客による「爆買いの減少」を挙げます。

「インターネットで日本の商品を購入できるようになり、中国人観光客が日本に来て爆買いをする必要がなくなりました。そのため観光庁は“モノ消費からコト消費へ”のシフトを提言しています。体験型観光で多くの消費を促せる“究極のコト消費”がカジノであり、続いてショーの観劇やスポーツ観戦などその他のエンターテインメントでもあります」

叫ばれる「ギャンブル依存症」への懸念

カジノ誘致によるメリットが示される一方、「ギャンブル依存症」を懸念する声も少なくありません。さらに大阪などの候補地では、カジノの建設に反対するデモが起こっています。「ギャンブル依存症」に対し、国はどのような働きかけをするのでしょうか。

「2018年7月に可決・成立した『ギャンブル等依存症対策基本法』には、既存のギャンブル産業とこれからできるであろうカジノの依存症対策がまとめられています。具体的には、電話相談窓口の設置や自国民のカジノ入場料の徴収、自己申告または家族の申告によって入場制限を行う排除プログラム(エクスクルージョン・プログラム)です」

これらの依存対策は、すでに海外のカジノ先進国で導入され、一定の効果があるといわれています。最も成功したモデルと言われているシンガポールもこれらの依存症対策を導入した結果、依存症の比率は導入前より減少しました。

また、ギャンブル依存症とともに考えなくてはならないのが、治安の問題です。カジノは多額の現金が行き交い、外国人観光客が大勢集まる場所。犯罪に巻き込まれる危険性はないでしょうか。

「人が集まることで、軽犯罪が増える可能性はあります。だからこそ、高度なセキュリティシステムを導入するので、かえって安全ともいえます。カジノに行ったことがない方は、映画の世界であるマフィアが仕切るカジノをイメージするかもしれませんが、今は上場企業が経営しているケースがほとんどです。一般の方が遊びに来られなければ儲かりませんから、クリーンで安全な場所になるよう企業も努力しています」

世界三大カジノの特徴と成功のカギ

ラスベガス、マカオ、シンガポールの世界三大カジノは、独自のモデルを築き成功しています。似ているようで異なる3都市の特徴から、日本の成功のヒントを探ってみましょう。

■ラスベガス

言わずと知れた砂漠のカジノ。夜もネオンが輝く眠らない街には、世界中から多くの観光客が押し寄せます。

「ラスベガスは、世界的に広まっているカジノの原点といえます。もとはカジノだけの街でしたが、今では劇場や国際会議場が建ち並び、街全体が大型リゾートになっています。大きな会場とホテルが豊富で、世界的に有名な家電市や産業見本市が開催されるなど、カジノ以外の収益も十分に確保できているバランスのとれた街です」

f:id:hito-contents:20180817101836j:plainラスベガスの街並み(出典:fotolia)

■マカオ

マカオは中国本土の南海岸に位置する特別行政区で、来訪者の大半は中国本土または香港からの旅行者。ラスベガスを上回るカジノ収益をあげる、大規模なカジノタウンです。

「マカオも、もとはカジノだけの街でした。1999年にポルトガルから中国に返還され、現在は中国政府が管理しています。外資系企業の参入が許されたことや中国の経済成長があいまって、世界最大のカジノになりました。その他の施設もありますが、大半はカジノの収益で賄っているため、統合型リゾート化でカジノ以外の価値向上に力を入れています」

f:id:hito-contents:20180817102030j:plainマカオの街並み(出典:fotolia)

■シンガポール

マレーシアの南に位置する島の都市国家。世界三大カジノのなかで唯一、構想初期からカジノだけでなく、宿泊施設や会議場を含めた統合型リゾート地としての成功を目指しました。

「シンガポールは、マリーナベイ地区とセントーサ地区の2つのエリアに、それぞれ1つずつカジノを含む統合型リゾート施設を建設するプランを立てました。その後、それぞれのエリアをどのように開発するか政府が条件を付した上で、IR事業者に入札を募りました。自国にノウハウがなかったので、海外の事例や情報を研究して、カジノの収益に頼らない統合型リゾート化を実現しています。今では統合型リゾート施設自体が国のアイコンになり、観光資源の一つとして大きな役割を担っています」

f:id:hito-contents:20180817102138j:plainシンガポール マリーナベイ地区(出典:fotolia)

これらの世界三大カジノはいずれも、カジノ単体でなく統合型リゾート産業としての成功を目指しています。はたして日本には、どのような統合型リゾート施設が建設されるのでしょうか。

「日本のカジノは既存の施設だけでなく、最先端の技術やエンターテインメントが含まれたものに仕上がるはずです。日本にはすでに豊富な観光資源があります。そのため、既存の観光資源との相乗効果を狙ったマーケットを展開するのではないでしょうか」

ニュースは原典に当たることが大切

ますます熱い視線が注がれるIR整備法とカジノ誘致の話題。さまざまな情報が飛び交うなか、私たちはどのようにこのニュースを読み解けばいいのでしょうか。

「事実とデータに基づいた原典に当たれ、と学生にはよく言っています。センセーショナルな話題はどうしても表層的な情報しか入ってきません。しかし、きちんと調べれば、正確な事実やデータを得られます。そういった情報の原典を見た上で、自分自身の意見をもつことが大切です。可能であれば、世界中のカジノへ行ってみてください。百聞は一見に如かず。生きた情報に出合えますよ」

執筆:水上歩美 編集:鬼頭佳代(ノオト)

参考

参考サイト

統計データ(訪日外国人・出国日本人)|統計・データ|日本政府観光局(JNTO)
2018.7.17

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/

平成29年年間値(速報)及び平成29年10-12月期の調査結果(速報)~訪日外国人旅行消費額は前年比17.8%増の4兆4,161億円 5年連続で過去最高額を更新、初めて4兆円を突破 ~ | 2018年 | 報道発表 | 報道・会見 | 観光庁
2018.7.17
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000339.html

IR実施法案:「カジノあかん」 大阪で反対集会 - 毎日新聞
2018.7.17
https://mainichi.jp/articles/20180706/ddn/041/010/016000c

参考文献

佐々木一彰、岡部智
2014年10月6日
「2020年、日本が変わる!日本を変える!カジノミクス」
株式会社小学館

高城剛
2016年12月7日
「カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?」
株式会社集英社

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お話を伺った方:佐々木一彰さん

東洋大学国際観光学部准教授。日本大学経済学部専任講師。専門はホスピタリティ産業とゲーミング産業。ネバダ州立大学カジノ上級管理者養成プログラム終了。IR*ゲーミング学会で理事を務める。著書に「カジノ産業の本質」(共訳監訳日経BP)、「カジノミクス」(小学館新書)他、多数。