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現地をしっかり見て、常に半歩先を読む 香川県高松市・ツジセイ製菓の採用と育成【注目の地方企業#3後編】

香川県高松市にあるツジセイ製菓は、全国の観光地のお土産菓子を作る影の企画会社です。設立の経緯や経営方針を深掘りした前編に続き、後編では採用基準や人材育成にフォーカスしてみましょう。 年間100件以上の企画を取引先に持ち込んでいる同社は、一体どのような採用を行い、企画力のある社員を育成しているのでしょうか。引き続き、代表取締役の田中大介さんに伺いました。

ツジセイ製菓 代表取締役・営業統括 田中大介さん

UターンやIターンはもちろん、香川好きからの応募も大歓迎

現在の従業員数は、正社員、パートタイマー、アルバイトを含め、総勢100人以上。毎年、高卒と大卒の新卒採用枠を設けています。転勤制度がないため、香川での暮らしを長く続けたい人にとっては魅力的な環境といえそうです。

「新卒採用は、香川県で育ち、他の地域の大学に進学し、Uターンで戻ってきた方が多いですね。ただ、出身地に強くこだわっているわけではありません。当社の理念に共感したり香川での生活に馴染んだりできる方なら、県外出身者も大歓迎です」

入社後はビジネスマナーなどの新人研修を経て、半年間は工場の中に入り、お菓子をどうやって作っているのかを詳しく学びます。入社時にお菓子作りに関する知識がなくても、研修が終わった頃にはかなり詳しくなれるとのことでした。

▲工場の中には、全国各地のお土産菓子が所狭しと並んでいます

新卒入社の主な採用業種は、「商品開発・品質管理職」と「企画営業職」の2つ。どちらも文系・理系問わず応募可能ですが、お菓子を実際に形にしていく食品開発・品質管理は、農学部出身者や食品関連の研究を専攻した学生の応募が多いそうです。

▲試作品は社内の開発専用スペースで作っています

年間提案数は100件!全国を飛び回る企画営業職

一方、企画営業職は、学生時代の専攻は問われません。全国各地の観光地や問屋を取引先として、お土産菓子の提案営業を行います。

「商品自体はもちろん、値段やパッケージデザイン、内容量まで、全て我々営業が企画します。大きな企業では分業制になっていることも、中小企業の僕らの場合はすべてに関わっていかなければいけません。だからこそ、自らが企画した商品がヒットしたときは本当にうれしいですよ」

▲工場のなかではお菓子の製造工程がよく見えます

企画営業職に着任した新人は半年間の工場研修後、すぐ先輩から仕事を引き継ぎ、一人で担当エリア内のお客様と向き合うことになります。

「当社のお客様は全国にいらっしゃいます。そのため必然的に、1人の担当エリアは非常に広範囲になります。また初回の取引先訪問時は上司と一緒ですが、二回目からは一人で訪問してもらいます。営業にとって何より大切なのは元気の良さ。それさえあれば、知識はあとから身につけられますから」

仕事をここまで早期に引き継げるのは、もちろん先輩がしっかりとバックアップできる体制があってこそ。本社に所属する企画営業は現在、田中さんを含む5人の少人数で、営業としての振る舞いや企画内容について細かくフィードバックしています。

「ノルマはありませんが、年間企画数100アイテムのうち、3割がヒットすればいいほうでしょうか。さまざまな地域のお客さまを大切にしながら、コツコツとヒット企画を作っていくイメージです。後輩の企画にはアドバイスをしますが、本人のなかにやりたいという熱い想いとしっかりとした考えがあれば、応援します」

▲地域の名産果物の香料なども、担当営業が現地で見つけてくるそうです

全国各地を飛び回るため、営業車の走行距離は年間5万kmにのぼることもあります。移動中に企画案を練ることも多いため、少しでも快適に車内で過ごせるよう、好きな車種を選べる制度を導入しています。

「これは先代社長の方針です。他の企業では客先に出向くときは小さい車に乗る企業もありますが、当社にとってはいい企画を持っていくほうがずっと大事。だから自信を持って好きな車に乗っていけ、と言っています」

こういった環境を整えた甲斐もあり、営業担当者はとにかくフットワークの軽いメンバーが揃ったそうだ。流行っている商品があると聞けば、翌日にはその地域に出向く社員も。営業ついでに、企画やデザインが気になったお菓子を全国から試しに買ってくるため、社内には各地域のお菓子の情報がどんどん集まってきます。

ネットで商品情報を見るだけではなく、そのときの売り場の作り方や様子を含めて共有するのも営業マンの大切な仕事です。その現地の事情をよく理解していたことが、ヒット商品に結びつくケースが少なくありません。

写真提供:ツジセイ製菓

「ある日、九州の営業担当が『このキャラクター(くまモン)でお菓子を作りたい!』と言い出したんです。当時は、くまモンが登場したばかりで、全国的にはまだまだ知られていない時期。私たちはパッとキャラクターを見て、『いやいやいや、こんな誰も知らないキャラ、売れないでしょ』と思いました。ただ、現地の温度感を知っていた営業が『絶対に売れます』と熱くぶつけてきて、絶対に譲らなかった。だからOKを出しました」

さっそくパッケージデザインや値付けを急ピッチで行い、商品をリリース。時を同じくして、くまモンブームに火が付きます。他社がまだそこまで目をつけていなかったタイミングを逃さなかったおかげで、新商品は大ヒットを記録しました。 

「現地に行って、周囲の温度感をつかんでいないとできない企画でした。もしブームになってから作り始めていたら、売れ時のピークに間に合わなかったでしょう。このように現地をしっかりと見て、常に半歩先を読んだ企画が理想的ですね。2歩も、3歩も先の未来は、逆に早すぎて売れないもの。半歩先くらいがちょうどいいんです」

▲田中さん自身、企画営業のやりがいを強く感じているそう

「僕たちにとってお菓子は、どこにでも売りに行けるアイテムだと思っています。例えば、自動車メーカーが相手なら、周年記念イベントをお祝いするお菓子作りのニーズがあるかもしれないですよね。やり方次第でどんな場所へも提案ができ、自分の思うように仕事を進められる。この自由さがやりがいにつながっていると思います。もちろん自由には責任も伴ってくるので、本人は大変でしょうが、小さくまとまらずにチャレンジしてほしいですね」

これから積極的に作っていきたいマーケットを質問してみると、少し意外な答えが返ってきました。田中さんは、地元・香川県のお土産にもっと力を入れていきたいと答えたのです。

「当社の香川関連商品は現在、売上全体の5%しかありません。全国に展開しているのは誇らしいことですが、作っている商品が地元のお店や施設にどんどん並ぶようになれば、従業員は周りに仕事を伝えやすくなるし、もっと誇りも持てるようになるんじゃないかな、と。香川県の特産の和三盆糖やオリーブなどを使い、良い原料を使っておいしいお菓子を作りたいですね。そこにどんな企画をミックスさせていくのか。これは企画営業チームの腕の見せ所でしょう」

節度あるユーモアさと自由を

このように、従業員の裁量を重んじるツジセイ製菓は、日々の仕事のなかにもちょっとしたユーモアを取り入れています。例えば、メールアドレスに入っているのは、名前ではなく、自分の好きなお菓子の名前。最近では人数が増えたため、お菓子の名称が足りなくなり、原材料名をアドレスに入れている社員も登場しています。

▲コーポレートサイトには、社員をお菓子に例えるコンテンツも

そもそも商品企画は、一見仕事に無関係なことや社内の雑談から生まれることが少なくありません。そこで同社はあまり業務とは関係がない記憶術やスピーチなどの研修を行うことも。また、マラソン大会やBBQといった社内交流の機会を積極的に作り、内容は自由に社員が企画しています。

さらに、年に1回は観光地を巡る国内研修を実施しています。自分たちが製造した商品の販売場所に立ち寄っています。

「観光地向けの商品を作っている会社なので、まず現地に行くこと自体が勉強になります。自分たちの作った商品が並ぶ売り場をチェックする機会はなかなかありませんから。それが売られている様子を見るのは誇らしいし、モチベーションの向上につながるんですよ」

個性を発揮してぶつかってきてほしい

自分は何がしたいのか、何ができるのか。いろんな迷いの中にいる就活生に向けて、田中社長に応援メッセージをいただきました。

「僕自身も面接をするのですが、形式張った答えをするのはもったいないな、と感じています。人間はいろいろなタイプがいて、大切なのは自分の個性が就職する会社にマッチすること。だから、自分を決めつけず、隠さず、個性を発揮してぶつかってきてほしいですね。僕自身も全く違う業界にいて、知識がないところから今の仕事を始めました。今はできないことでも、経験を積み重ねれば人は成長していけますから」

こんなエールを送ってくれた田中社長自身も、まだまだ社長業に挑戦中の身。ツジセイ製菓のさらなる成長に向けて、どんな人材を求めているのでしょうか?

「うちの会社は変わっているので、ちょっと変わった人じゃないと続かないかもしれません(笑)。もちろん、多くの部署では真面目な方が貴重な戦力になるのですが、企画営業職では面白いことやユーモアが好きな人材を歓迎します。旅行やお菓子が好きだと、もっといいですね」

田中社長の言葉にあったように、就職活動は就活生と企業の相性をじっくり見極める貴重な機会。同社のように地域密着でユニークな事業を展開する優良企業は、まだまだ日本全国にたくさんあります。もっと広い視点で情報収集や企業研究をして、自分に合う会社を見つけてください。

 

取材・執筆:鬼頭佳代(ノオト) 撮影:水子貴皓

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田中大介さん

お話を伺った方:田中大介さん

ツジセイ製菓株式会社 代表取締役 営業統括。1982年兵庫県生まれ。大学卒業後、住宅設備メーカーでキッチン設計などを手掛ける。平成18年のツジセイ製菓入社後は、工場や商品開発、営業などの各部門に携わり、2017年より現職。